第1章「レッスン」
 
パーソナルトレーニングのコアとなるサービスは言うまでもなく「レッスン」です。
 
レッスンの中身が優れているトレーナーは、お客様の継続率が高く活動も安定します。
 
さらにレッスンに自信のあるトレーナーは、集客やカウンセリングも堂々と行えますから、ご新規の契約率も高いと言えます。
 
パーソナルトレーニングの「レッスン」で、特に重要となるスキルは
 
「運動プログラムの作成」と「インストラクション」です。
 
「運動プログラムの作成」とは、個々のお客様に対して適切で効果的な運動メニューを段取り良く組み立てられる能力です。
 
「インストラクション」とは、個々のお客様の性格やトレーニングスペース、様々な環境に合わせてスムーズな誘導ができる能力です。
 
第1章「レッスン」では、お客様へ満足度の高いサービスを提供する為の技術を紹介します。
 
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第1節「費用対効果を上げるレッスン構成」
 
レッスン構成はお客様の費用対効果に直結する大事な要素です。レッスンは時間に値段のついた商品だからです。
 
例えば、同じ60分のレッスンで考えてみましょう。
 
Aと言うトレーナーのレッスンは、スポーツジムのマシンの空き具合で構成を変える行き当たりバッタリのレッスンだとします。
 
それに対し、Bと言うトレーナーのレッスンは、同じスポーツジムのレッスンですが、スタートからゴールまでお客様にストレスを感じさせない段取りを準備していたレッスンだとします。
 
同じ価格のレッスンだとしたら、お客様はどちらのレッスンを継続したいと思うでしょうか。多くの人が準備の整ったBさんのレッスンを継続したいと思うはずです。
 
このように、レッスン構成はお客様から明確に価値の優劣を比較される、とても重要な技術の1つです。
 
お客様から見た「費用対効果の高いレッスン構成」をまとめます。
 
費用対効果の高いレッスン構成①
「トレーニング効果の高いレッスン構成」
 
「レッスン構成は良いが、全然カラダに効かない。」と言うのは本末転倒です。
 
適切なトレーニング種目を
適切な順番で
適切な負荷を
適切な回数で
適切なセットを
個人の個性や目的に合わせ
その日の天候
お客様の体調に合わせて
微調整し
お客様の身体に最適な刺激を提供できるよう最善を尽くしましょう。
 
費用対効果の高いレッスン構成②
「お客様のトレーニングポジション」
 
トレーニングポジションとは、お客様がトレーニングする上での姿勢や目線の事です。
 
お客様にストレスを感じさせないレッスンを作る上でトレーニングポジションはとても大切です。
 
実際のレッスンを例に挙げて考えてみましょう。
 
①スポーツジム
②個別スタジオ
の、2つのスペースで説明します。
 
 
①スポーツジム
スポーツジムのレッスンは前提として、パーソナルトレーニングを受講されていない一般のお客様と同じ環境で行わなければいけません。その中でレッスンを構成する必要があります。
 
その上で、費用対効果を高めるのに重要になるのは、1にも2にも、
 
「空間の根回し」です。
 
他のお客様のなるべく少ないスペースを事前に用意して、お客様のストレスを軽減して差し上げなければいけません。
 
「それは無理。そのくらいはお客様に目をつぶってもらわなきゃ。」
 
と、思う方もいらっしゃるでしょうし、確かに施設の問題ですから、難しい部分もあります。
 
ですが、だからこそ、そこで他のトレーナーとのレッスンクオリティに差が出ます。
 
「あのトレーナーのパーソナルには客を思いやる愛がある。」
 
と、お客様に思っていただく為には、最大限の準備が必要です。
 
スポーツジムなどの共同施設で行う場合は、一般のお客様との差別化が最も大事です。
 
それができていれば、後は個別スタジオと要領は変わりません。
 
②個別スタジオ
個別スタジオではラックやダンベルなどを利用するタイプのスタジオと、道具はほとんど使わずマットと自体重のみでレッスンをするタイプのスタジオの2通りあると思います。
 
それぞれで説明します。
 
●ラックやダンベルを使うスタジオの場合
 
道具を中心としてレッスン構成を組み立てる場合、どうしてもレッスン構成の自由度は狭まります。
 
それをカバーする為には、トレーナーの小まめで繊細な空間作りとインストラクションが必要です。
 
例えば、ラックの中でスクワット、デッドリフト、ベントロー、ベンチプレス、ショルダープレス、アームカール、クランチなど、これらを全て行うとするなら、その順番は立位から始まり、最後に仰向けで終わり、そのままパーソナルストレッチに移行できればお客様にとってストレスは少ない。
 
その限られた空間の中で、
「ドリンクの位置はスクワットの時はここ、ベンチプレスの時はここ。」
のように、お客様にとって最も快適なトレーニング空間をつくりあげます。
 
その他、
 
「スクワットの時、この重さの時の足の位置はここ、つま先の向きはこっち、お尻はこの高さを目標にして下す。」
 
など、事細かく指示を出すことで専門性を格段に上げる事ができます。
 
同じ空間の中、同じ道具を使って、同じ種目を繰り返すレッスンは、どんなに効果が高く、トレーナーが魅力的でもいつかは飽きます。
 
この時にトレーナーのポジション操作能力はそれを軽減する事ができます。
 
●道具を使わないスタジオの場合
 
ヨガスタジオやマットピラティス、自重トレーニングやコンディショニングがメインのパーソナルスタジオでは、レッスンの自由度が高い事からトレーナーの「レッスン構成能力」や「空間操作能力」などが問われます。
 
例えば、マット1枚程のスペースで行うレッスンのような、歩いて移動を伴わない場合、お客様のトレーニング体位の順番を意識してメニュー作り込むとお客様のストレスは軽減します。
 
わかりやすく、この場合での費用対効果の低いメニューを書きます。
 
①立位のスクワットでトレーニングスタート
②仰向けのストレートレッグレイズ
③立位のランジ
④仰向けのヒップリフト
⑤立位のサイドスクワット
 
このように、同じ下半身周りのトレーニングをする上で、お客様に立ったり寝たり、また立たせたりして頂くのは、お客様にとってストレスですし、それは時間対効果の低いレッスンと判断されかねません。
 
「とはいえ、効果の面では仕方ない事もあるのでは?」
 
と、思われる方もいらっしゃると思います。
 
確かに、トレーニング効果を最優先で行わなければいけない場合もあるかと思いますが、そんな時でもその中で最もスムーズなレッスンになるよう、事前の準備とインストラクションに気をつけていきたいものです。
 
さらに、お客様の体位と連動して気をつけたいのが、お客様の目線です。
 
マシンを利用しない環境では、お客様の位置をトレーナーが逐一指示をしなければいけません。
 
例えば、スクワットをする際も、「どちらを向いてスクワットをしてもらいたいのか」をハッキリ指示した方がお客様に親切です。
 
お客様にトレーニング効果だけではなく、「気持ちの良い時間」「費用対効果の高い時間」を体験して頂きたいのであれば、例えばスクワットをする際は窓の方向を目線にして行って頂いたり、仰向けの腹筋運動をして頂く際も、「照明は真上でないか?」「空調は直接当たっていないか?」「音楽はうるさく聞こえていないか?」などに気をつけて最良の環境でトレーニングポジションを指示できるはずです。
 
これらは、日々のレッスンの中でトレーナーが意識していないと改善はされません。
 
いつも、お客様の目線で考え、より良いレッスンを作って参りましょう。
 
※実践的なトレーニングプログラムの中身については、パーソナルトレーニング養成講座の実技講習にて行わせて頂きます。

第2節「時間対効果を上げるインストラクション」 
 

 
パーソナルトレーニングサービスは30分間だったり90分間だったり、サービスに時間が決められている場合が普通です。
 
それゆえに、サービスの時間帯価値はトレーナーの誘導スピードやタイミングに強く関与します。
 
例えば、お客様が同じ運動メニューを指導されるとして、それが同じ60分間10000円と言う指導料金だとしたら、無駄のないスムーズな指導の方が時間帯価値は高いと言えます。
 
さらに、同じ時間の中で同じスクワット20回を指導される場合も、「横でカウントするだけのトレーナー」よりも、「注意点の指摘や呼吸の促し、タイミングの良い励まし」などの有るトレーナーの方がパーソナルトレーニングのサービス価値は高いと言えます。
 
インストラクションは、この「サービス価値」を高める為にトレーナーが身につけておいた方が良い技術です。
 
トレーナーのキャラクターによって、得手、不得手はあると思いますが、基本的な技術を抑えておくだけでもレッスン自体の進行が楽になりますので、是非体得してみてください。以下にまとめます。
 
インストラクション①
〈スタートとゴール〉
 
インストラクションはレッスンの始まりからレッスンの終わりまで続いています。
 
例えば、お客様にその日初めてお会いした時に、
「こんにちは。今日もよろしくお願いします。頑張って参りましょう。」
 
と言えば、レッスンがスタートします。
 
お客様とお別れをする際も
「今日もトレーニングお疲れ様でした。頑張りましたね。次回も楽しみにお待ちしております。」
 
と言えば、レッスンはゴールします。
 
当たり前かもしれませんが、スタートとゴールがしっかりしている事はとても大事です。レッスンとして引き締まります。
 
それと同じように、トレーニングの各種目毎でのスタートとゴールでのインストラクションも大事です。
 
トレーニングが「始まったのか」、「終わったのか」をお客様へ明確に指示しなければいけません。
 
例えば、お客様にスクワットを20回行ってもらうとします。この時にトレーナーからスタートの掛け声が無ければお客様は
 
「え?始めて良いの?って言うかこれじゃ1人でやるのと変わんないんじゃない?指示くらい出してよ。」
 
と思われても仕方ありません。
 
種目のスタートの際は、出来るだけお客様の気持ちを盛り上げ、出来るだけお客様が気持ちの良いタイミングで
 
「せーの!」
 
と、インストラクションをするのが望ましいです。
 
同じように種目のゴールでも、
 
例えば、スクワット20回のメニューだった場合、「20回行ったら勝手にやめてください」みたいなスタンスではいけません。
 
15回目くらいから、カウントを始めて
 
「15,16,17,18,19,はい!お疲れ様でした!頑張りましたね!綺麗なフォームでしたよ!」
 
と、言って誘導した方がお客様にとっては価値が高いに違いありません。
 
トレーナーによっては
 
「いや、そんな小っ恥ずかしい事できないよ。お客様だってそんなの嫌がる人もいるし。」
 
と、思うかもしれません。確かにトレーナーのキャラクターによってはそれが違和感になる場合もあるので、ソコは空気を読んで行う事も大事です。
 
トレーナーとお客様の距離感で最適なインストラクションができる事も、トレーナーの力量だと思います。
 
少なく共サービスを受ける側のお客様目線ではそう言い切れると思います。
 
サービスの価値は、「お客様目線」と「トレーナー目線」で噛み合わない場合があります。
 
トレーナー目線でのサービス価値が「専門性」である場合が多いのに対して、お客様目線では「サービス性」に重きが置かれたりします。
 
気持ちの良いサービスを望んでいるお客様に対して、トレーナーが「自分の仕事はトレーニング指導だからサービス性は関係ない」と対応すれば、レッスンのサービス価値は著しく低下します。
 
伝える内容はもちろん大事ですが、伝え方もそれと同じくらい大事です。
 
インストラクションレベルは、意識しなければ向上しません。
 
日々の1本1本のレッスンの中で、いつも向上を意識して、いろいろな事を試してみてください。


3-3第3節「顧客満足度を上げる空間利用」
 
お客様の顧客満足度を高める事は、お客様のサービス継続率を高める事に繋がります。
 
それではお客様の顧客満足度を高める為に、トレーナーは何が出来るでしょうか?
 
第1節の「レッスン構成」でもお話しましたが、パーソナルトレーニングサービスにおいて、トレーニング環境の優劣はサービスの費用対効果に大きく影響します。
 
その中でもトレーナーが空間を利用できているか否かはトレーナーの営業努力で操作できる部分ですから、積極的に高めていくべきです。
 
ジムのパーソナルトレーナーであれば、お客様が扱う空間や器具に対して、段取り、清掃、温度、明るさ、音の大きさ、床の滑り具合など、レッスンのクオリティを上げる為にチェックできる事は沢山あります。
 
パーソナルスタジオの場合はこのクオリティが顕著に表れます。お客様にとって、自分しか使わないはずのトレーニングスペースが汚れていれば、それはトレーナーが準備をしていない事と判断されます。高額のレッスン料金を払い、適当に扱われたのでは、顧客満足度は下がって然りです。
 
さらに出張トレーニングの場合も、顧客満足度と空間の関係は密接です。
 
出張トレーナーの最大の特徴は「お客様へ特別な体験」を提供できる事です。ジムでもスタジオではできない特別な体験をご用意できなければ、ジムやスタジオのトレーナーと差別化ができません。
 
その意味で、出張トレーナーは空間を企画する力や、それを整え感動に発展させられるような「トレーニング体験プロデューサー」のような能力が必要です。
 
例えば、桜の季節に公園でトレーニングを企画するとします。
 
その際は、風が強い場合、雨が降ってしまった場合、人が多かった場合など、いくつかのパターンを想定して、どんな状況でもお客様に「ああ、こんな気持ちの良い体験はした事がない。身体を動かすって素晴らしい。生きているって素晴らしい。」と思って頂ける準備が必要です。
 
レッスンの一本一本に愛を持って、お客様に接すれば、顧客満足度は上がり、仕事は増え、トレーニングのプライスも上がっていきます。
 
反対にレッスンのプライスを安価に設定して、顧客満足度を考えず、作業のようにレッスンをこなせば、レッスンのプライスは上がりません。
 
トレーナーとして、クオリティとプライドの高い仕事をする為に空間を考える事はとても大切な事と思います。

第4節「費用対効果とアイテムの関係」
 
パーソナルトレーニングでは、マシンやダンベルなどの他にも様々なアイテムを利用します。
 
それらは、使い方によってレッスンの質を高める場合もあれば、反対にお客様によって費用対効果を下げてしまう恐れもあるので、使用には注意が必要です。
 
例えば、最新の電動小型マッサージガンでマッサージをしてくれるトレーナーよりも、手で揉んでくれるトレーナーの方がお客様にとっては価値が高かったりします。
 
例えば、最新の振動マシンでトレーニングをさせられるよりも、徒手抵抗の方がパーソナルのありがたみを感じてもらいやすかったりもします。
 
パーソナルトレーニングはマンツーマンのサービスですから、より密接にトレーナーのサービスを感じられる方がお客様にとっては、純粋なパーソナルトレーニングと感じられるのだと思います。
 
とはいえ、パーソナルトレーナーになったばかりの頃は、トレーニングのバリエーションを増やしたかったり、お客様の事を思うばかりに色々なアイテムを取り入れようとする気持ちは誰にでもあると思います。
 
実際に便利で効果の高いアイテムも多いので、使い方によってはレッスンの費用対効果が大幅に上がる事もあります。
 
アイテムはあまり前面に出し過ぎず、オプションとしてさりげなく使いこなす事が望ましいと私は思っています。